芳田剛先生の紹介

助教 武内寛明 助教 芳田 剛
Takeshi YOSHIDA Ph.D.
tyoshida.molv at tmd.ac.jp
Assistant Professor
野球・バーベキュー(屋内・屋外)

なぜウイルス学を研究しているのか

  1. ウイルスは宿主を乗っ取ることにより増殖するから
  2. 宿主を乗っ取るためにウイルスは迅速に進化するから
  3. 「宿主を乗っ取る」とは何を意味するのか?
    -ウイルスが宿主蛋白質を乗っ取る性質を標的に新規抗HIV-1戦略を描けるのか?-
  4. だから、ウイルス研究は面白い!

1.ウイルスは宿主を乗っ取ることにより増殖する(感染することで自己複製を行う)

 ウイルスは自身で代謝(エネルギー合成など)を行うことができないため、自身で増殖することができない。そこで、宿主を乗っ取ることによって自己の遺伝子を複製させ、子孫ウイルスを増殖させる(図-1)。
 この営みをウイルス感染という。
 この一言で表現できる「ウイルス感染」だが、実はウイルスにとって為すべきミッションは多い。簡単に考えても、ウイルスは感染する宿主の防御機構をかいくぐり感染を成立させるミッション、ひとたび感染を成立させた後も宿主から排出されずに潜入しつづけるミッション、宿主内の環境に適応し効率的に子孫ウイルスを産生するミッションを完遂する必要がある。このように、ウイルスが宿主を乗っ取って増殖するために、様々な障壁をクリアしながらミッションを遂行する必要があるのだ。

2.宿主を乗っ取るためにウイルスは迅速に進化する

 ウイルスは進化することにより、これらの障壁を迅速に克服し、宿主に対して適応する。この場合、適応とは「宿主蛋白質の乗っ取り、より巧妙に利用すること」と、
「宿主の防御機構をかいくぐること、もしくは撃退すること(宿主防御機構の克服)」を意味する(図-1参照)。
 ウイルス進化の行程は、ウイルス遺伝子の変異、ウイルス遺伝子産物(主に蛋白質)の機能変化、機能変化による障壁の克服(選択)という一連の事象を意味する。この一連の事象の中で、ウイルスは「短時間で行われる幾何級数的な増殖」と「高頻度の遺伝子変異」を背景とした多様性(遺伝的多様性)により、迅速な進化を成し遂げる。この進化のメカニズムは抗ウイルス薬に対しても威力を発揮し、抗ウイルス薬が効かない薬剤耐性ウイルス発生の原因となっている。
 このようなウイルスの進化の速さは、宿主に依存しなければ増殖できないというウイルスの宿命を逆手にとり、チャンスに変えた結果であると考えることもできる。

3.「宿主を乗っ取る」とは何を意味するのか?
-ウイルスが宿主蛋白質を乗っ取る性質を標的に新規抗HIV-1戦略を描けるのか?-

 私たちが研究対象にしている、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)も宿主細胞を利用することにより感染を成立させ、宿主蛋白質を乗っ取ることで子孫ウイルス産生をしている。実際、図-2の黄色字に示すように、宿主細胞へ侵入するにも、核内へ到達するにも、ウイルス遺伝子の転写を行うにも、転写後のmRNAを核外輸送するにも、宿主蛋白質を乗っ取ることで完遂している。

この特徴を逆手にとって、「ウイルスに利用される宿主因子」のウイルスに利用されている機能を特異的に阻害することにより、HIVの増殖を抑制する戦略を描くため、その基盤となる研究を進めている(図-3、左側;原著論文1,2,4,5,7)。
 一方、ウイルスは宿主に感染する性質上、宿主の防御機構から逃れる機構を有する。事実、HIV-1はウイルス蛋白質を用いて宿主の抗ウイルス蛋白質群(図-2、赤字)から逃れていることが知られている。そのため、人為的にウイルス蛋白質を欠損させた変異ウイルスは抗ウイルス蛋白質群から逃れることができず、効率的な増殖ができない。このような事例を踏まえて、私は、ウイルス蛋白質がもつ「宿主防御機構を克服する能力」を阻害することにより本来宿主が持つ抗ウイルス能力を覚醒させ、ウイルス増殖を抑える、という新たなHIV抑制戦略の可能性を模索したいと考えている(図-3、右側)。
これまで私は、宿主の抗ウイルス宿主防蛋白質BST-2をウイルスが克服する分子メカニズムの解明を行なってきた(原著論文9,10,12,13,14)。ウイルス蛋白質Vpuがどのようにして宿主のBST-2蛋白質に作用しその抗ウイルス活性を不活化させるか、ウイルスがBST-2を克服するためにVpuを進化させてきた過程、に興味を持っており、今後研究を発展させていく計画である。
 今後は、「抗ウイルス宿主蛋白質」と「ウイルスに利用される宿主蛋白質」の両方に着目し、今までに知られていないHIV-1増殖に関わる宿主蛋白質の同定実験を進める。そして、新規に同定した宿主蛋白質とウイルス蛋白質の相互作用の分子メカニズムを理解し、その理解に基づく新たな抗ウイルス戦略を構築することが私の研究目的の1つである(図-3参照)。

4.だから、ウイルス研究は面白い!

 なんといっても、ウイルスの宿主を乗っ取る性質が面白い。それゆえ、ウイルスを理解するには乗っ取られる宿主についても理解しなければならない。ウイルスを駆逐したければ、宿主を駆逐すればいいかもしれないが、ヒトの病気を治す場合は、その論法は通用しない。宿主に与える影響を最小限にしつつ、ウイルスだけを標的とする戦略を採らなければならない。そこが難しい。
 また、ウイルスの迅速に進化する性質が面白い。まさに適者繁栄を映す鏡と言える(適者生存、という言葉が知られているが、そもそもウイルスが生存しているとは言い難く、この言葉を使用するのは難しい!)。つまり、裏では適応できぬものは淘汰されている訳だが、ウイルスは一回の感染で幾何級数的な増殖をするため、その中に適応できうる変異体が存在し、多くの場合淘汰されない。すなわち、進化を可能としている。
 一方、宿主についても、ウイルスが生命を脅かす場合や生殖能に影響する場合、そのウイルス感染に抵抗性を持つ個体以外が淘汰され、歴史の中でそのウイルスに対して適応する可能性がある。今後、抗ウイルス活性をもつ宿主の蛋白質に着目し、動物間に存在するアミノ酸相違から過去のウイルス感染による宿主の進化の可能性を検証しようと考えている。今後、ウイルス増殖や宿主の病態発現における宿主因子の役割、ウイルスの進化における宿主因子の役割、ウイルス感染を選択圧とした宿主の進化などの分子機序を、実験を通して明らかにしていく計画である。
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大学院生の指導方針

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 ‐ 正確な情報を得る技術
 ‐ 論理的思考
 ‐ 問題を解決する能力
 ‐ 言葉を通して、自分の考えを相手に伝える技術(討論、研究発表、論文書き)
 ‐ 実験手法の習熟

発表論文

‐原著論文

14. Functional antagonism of Rhesus Macaque and Chimpanzee BST-2 by HIV-1 Vpu is mediated by cytoplasmic domain interactions.
Takeshi Yoshida, Yoshio Koyanagi, Klaus Strebel,
Journal of Virology, Vol. 87(24):13825-13836, 2013 (Epub October 9, 2013)

13. Antibody-mediated enhancement of HIV-1 and HIV-2 production from BST-2/tetherin+ cells,
Eri Miyagi, Amy Andrew, Sandra Kao, Takeshi Yoshida and Klaus Strebel,
Journal of Virology, Vol. 85(22) pp11981-11994, 2011 (Epub September 14, 2011)

12. Some Human Immunodeficiency Virus Type 1 Vpu Proteins Are Able To Antagonize Macaque BST-2 In Vitro and In Vivo: Vpu-Negative Simian-Human Immunodeficiency Viruses Are Attenuated In Vivo,
Masashi Shingai***, Takeshi Yoshida***, Malcolm A. Martin, Klaus Strebel,
Journal of Virology, Vol. 85 (19) 9708-9715, 2011 (Epub July 21, 2011)
***; these authors contributed equally

11. Lineage analysis of newly generated neurons in organotypic culture of rat Hippocampus,
Jun Yokose, Toru Ishizuka, Takeshi Yoshida, Jun Aoki, Yoshio Koyanagi, Hiromu Yawo,
Neuroscience Research, Vol. 69, pp223?233, 2011 (Epub December 8, 2010)

10. Identification of Residues in the BST-2 TM Domain Important for Antagonism by HIV-1 Vpu Using a Gain-of-Function Approach,
Takeshi Yoshida, Sandra Kao and Klaus Strebel,
Frontier of Microbiology. Vol. 2, 35, 2011

9. Identification of Amino Acids in the Human Tetherin Transmembrane Domain Responsible for HIV-1 Vpu Interaction and Susceptibility,
Tomoko Kobayashi, Hirotaka Ode, Takeshi Yoshida, Kei Sato, Peter Gee, Seiji P. Yamamoto, Hirotaka Ebina, Klaus Strebel, Hironori Sato, Yoshio Koyanagi,.
Journal of Virology, Vol. 85 (2) 932-945, 2011 (Epub November 10, 2010)

8. T cell-based functional cDNA library screening identified SEC14-like 1a carboxy-terminal domain as a negative regulator of human immunodeficiency virus replication,
Emiko Urano, Reiko Ichikawa, Yuko Morikawa, Takeshi Yoshida, Yoshio Koyanagi, Jun Komano,
Vaccine, Vol. 28, B68-B74, 2010

7. N-linked glycan-dependent interaction of CD63 with CXCR4 at the Golgi apparatus induces downregulation of CXCR4,
Takeshi Yoshida, Hirotaka Ebina and Yoshio Koyanagi,
Microbiology and Immunology, Vol. 53(11): pp629-635, 2009

6. Comparative study on the effect of human Bst-2/Tetherin on HIV-1 release in cells of various species,
Kei Sato, Seiji P. Yamamoto, Naoko Misawa, Takeshi Yoshida, Takayuki Miyazawa, Yoshio Koyanagi,
Retrovirology, Vol. 6, 53-61, 2009

5. A CD63 mutant inhibits T-cell tropic HIV-1 entry by disrupting CXCR4 trafficking to the plasma membrane,
Takeshi Yoshida, Yuji Kawano, Kei Sato, Yoshinori Ando, Jun Aoki, Yoshiharu Miura, Jun Komano, Yuetsu Tanaka, and Yoshio Koyanagi
Traffic, Vol. 9(4): 540-558, 2008

4. Identification of the P-TEFb complex-interacting domain of Brd4 as an inhibitor of HIV-1 replication by functional cDNA library screening in MT-4 cells,
Emiko Urano, Yumi Kariya, Yuko Futahashi, Reiko Ichikawa, Makiko Hamatake, Hidesuke Fukazawa, Yuko Morikawa, Takeshi Yoshida, Yoshio Koyanagi, Naoki Yamamoto and Jun Komano
FEBS Letters, Vol. 582, pp.4053-4058, 2008

3. Separate elements are required for ligand-dependent and -independent internalization of metastatic potentiator CXCR4,
Yuko Futahashi, Jun Komano, Emiko Urano, Toru Aoki, Makiko Hamatake, Kosuke Miyauchi, Takeshi Yoshida, Yoshio Koyanagi, Zene Matsuda and Naoki Yamamoto
Cancer Science, Vol. 98(3): 373-379, 2007

2. Role of Nup98 in nuclear entry of human immunodeficiency virus type 1 cDNA.
Hirotaka Ebina, Jun Aoki, Shunsuke Hatta, Takeshi Yoshida, Yoshio Koyanagi,
Microbes & Infection, Vol. 6(8): 715-724, 2004

1. A Lentiviral cDNA Library Employing Lambda Recombination Used To Clone an Inhibitor of Human Immunodeficiency Virus Type 1-Induced Cell Death,
Yuji Kawano, Takeshi Yoshida, Kuniko Hieda, Jun Aoki, Hiroyuki Miyoshi, Yoshio Koyanagi,
Journal of Virology, Vol. 78(20): pp11352-11359, 2004

‐日本語総説

1. 小柳義夫, 芳田剛 
HIV感染を抑制する宿主因子の探索、
化学療法の領域, 2006年7月号、22(7): 1141-1147

2. 芳田剛, 小柳義夫
HIV粒子粒子形成・放出過程 -新たな細胞性因子の関与-、
化学療法の領域, 2007年11月号、23(11): 1714-1720

3.HIV-1アクセサリー蛋白質およびその標的宿主因子の霊長類モデルによる評価
芳田剛、明里宏文 
日本エイズ学会誌、Vol.17 No.1、 P7~13、2015年2月

自己紹介

‐ 研究を通して、世界で初めて謎が解明される瞬間を迎えられることが好きです

‐ その謎を解明したことの面白さを仲間と共有することが好きです。

‐ 研究結果を文字とフィギュアに込めて(論文にして)、世界の研究者そして未来の研究者と共有する喜びを感じています。

‐ 世界の研究者の発見や発明を知り、感銘を受けること、刺激を受けることが好きです。

‐ 研究の素晴らしさや面白さを、言葉を通して表現したいと思っています

- 豚汁と鯵の南蛮漬けと春雨サラダと鰻丼と焼肉が好きです。

略歴

1999年
私立聖光学院高等学校(神奈川県横浜市) 卒業

2003年
東北大学農学部 卒業

2005年
東北大学医学研究科 修士課程 修了

2006年 (‐2009年)
日本学術振興会特別研究員(DC 1)

2009年
京都大学医学研究科 博士課程 修了
博士(医学)

2009年4月-2013年10月 
米国衛生研究所に勤務。博士研究員

2013年11月-2015年3月
京都大学霊長類研究所 特定助教

2015年4月‐現在
現職

受賞暦

2010年10月
Fellows Award for Research Excellence 2010, National Institute of Health

2011年2月 
Young Investigator Award, Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections 2011