教授の紹介

教授  山岡 昇司 教授  山岡 昇司
Shoji YAMAOKA M.D.Ph.D.
shojmmb at tmd.ac.jp
教授 Professor
Virus-cell interation The NFκB family of transcription factors

山岡昇司の履歴書


研究内容

最先端技術によるウイルス感染・情報伝達分子研究法

(1)君はウイルス感染を左右する細胞因子を知りたい?

(2)君はがんの分子標的治療をめざした研究に興味がある?

(1)ウイルス複製をコントロールする宿主細胞因子の研究

分子生物学的手法による遺伝子クローニングの競争はきびしく、標的として何を選ぶかと、その戦略が明暗を分ける。世界中で細胞遺伝子の機能を求めて一日24時間実験室は稼働している。その方法は生化学的精製、proteomics、yeast two hybrid法、遺伝学的手法, et cetera…と実に様々であるが、どの方法にも一長一短があることを知らなければならない。と同時に目標とする遺伝子に到達するのに最もふさわしい手法が何かを見抜かなければならない。注目した細胞やウイルスの制御がゲノム・RNA・蛋白質のどの段階でなされるかによるからである。我々はいかなる手法であれ、目標に最も適した手法をとることに躊躇しない。

私たちの採用する方法のひとつは、発現クローニング法である。まず細胞に変異原処理するか遺伝子発現ライブラリーを導入してシグナルが変化した細胞を樹立する。その変化が何らかの蛋白質の機能不全・消失にもとづくものならば、この細胞にcDNAライブラリーを導入して正常復帰した細胞を選べばよく、あらかじめcDNA発現ライブラリーを導入してある場合にはそのcDNAを回収すればシグナル伝達やウイルス感染に必須な因子の遺伝子をクローニングすることができる(Yamaoka et al. Cell 93 1231-1240, 1998)。この方法の美しい点は、実験経過がすなわち機能証明になっているところである。難点は、たったひとつの遺伝子に到達するのが最後の最後であることである。学問にも実験にも王道はない。遺伝子クローニングではどんな方法にもどこかに煩雑なステップはあるが、重要なことはできれば実験の早い段階で遺伝子産物の機能的保証が得られることである。細胞の選択法が十分にpowerfulであれば1億個以上の細胞から変異細胞・正常復帰細胞をとることは決して困難ではない。それは、いかにノイズの低い細胞選択法を作り上げられるかにかかっているのである。最初からcDNAやランダムペプチド発現ライブラリーをレトロウイルスで導入する場合はこれをゲノムからPCRで回収するのだが、より正確な情報を得るにはここに一工夫も二工夫も知恵をしぼる。

私たちはそのような細胞選択システムを作るのに成功し、エイズの原因ウイルス(HIV-1)が感染しにくい細胞を樹立し、もともと感染しやすい細胞が、たった1種類のcDNAを発現することによってウイルスのライフサイクル(別図1)が阻害されて著しく感染抵抗性になることを見出している(別図2)。ウイルス複製を抑制することがわかっている細胞因子に関しては、積極的にそのメカニズム解明に取り組んでいる。


(別図1)

 


(別図2)

 

(2)がんの分子標的治療をめざした研究

人の病気の有効な治療法を開発する上で、病気のしくみを知ることはたいへん重要である。治療がむずかしい癌や、長い間続く発熱や痛みを伴う炎症を特徴とする病気の治療をするにあたって、症状を緩和するだけではなくできるかぎりその病気の原因を取り除くような治療ができないかという考えから、私たちは治療の標的になるような病気特有の異常を見つけ出すことを目標に研究をしている。

病気の原因を細胞レベルで考えると、遺伝子と蛋白質の問題にたどり着く。それは、正常な細胞の活動を支えているのが蛋白質同士のネットワークだからであり、そこでは情報のやり取りはもちろん、相互作用によって物が作られたり運ばれたりあるいは分解されたりする。ある病気での蛋白質の異常は、発現量や構造上の異常かもしれないし、蛋白質分子上に加えられる目印(修飾)の違いが原因であるかもしれない。癌を例にとると、細胞膜から細胞核さらには遺伝子へと情報を伝えるシグナル伝達経路上の蛋白質が遺伝子配列の変異の結果発癌性を持つようになったり、ふだん細胞の増殖を抑えている蛋白質が変異の結果その機能を失ったり蛋白質の発現が失われたりすることがある。炎症という現象はけがをした際や病原体に感染したときに起こるからだの反応で、発熱や痛みを伴う。慢性炎症性疾患は、このような外的な原因がなくなっても炎症が治まらないような病気で、炎症をコントロールする遺伝子の発現や蛋白質に問題が生じていると考えられている。自己免疫疾患(膠原病)やアレルギー、最近ではがん、肥満や動脈硬化症も慢性炎症と関連があると報告されている。

私たちはウイルスが起こす血液細胞のがんである成人T細胞白血病の研究をとおして、細胞の核で遺伝子の発現調節をするNF-kappaBと呼ばれる蛋白質が異常に活性化していること、その原因が細胞膜からNF-kappaBへと情報を伝える経路上にあるNF-kappaB inducing kinase (NIK)という蛋白質の過剰発現であること、その現象は血液細胞のがんに限らず肺癌や卵巣癌などウイルスが関係していないと考えられるがんでも起こること、などをあきらかにした。炎症がおさまらずにひどくなる病態が、NF-kappaB の活性が適正にコントロールされないことと関係が深いこともわかっている。NIKはマウスでの実験から免疫機能に重要な役割を果たしていることが報告されているので、ヒトでもNIKを直接治療標的にすると問題が起こる可能性がある。したがって、もっぱらがんや慢性炎症で起こっている変化、つまり異常の根本原因をつきとめることで、それが治療標的としてふさわしいか検討する必要がある。

 

研究方法の説明

NF-kappaB の活性は、細胞膜から細胞核へとつながるシグナル伝達経路によってコントロールされている。この経路には大きく分けてふたつあり、分単位で働く定型的経路と持続的な活性を担うと考えられている非定型的経路がある。NIKは非定型的経路で番人のような役割を果たすリン酸化酵素で、蛋白質としての発現はメッセンジャーRNA量だけではなく、NIKをとりまく多くの蛋白質との相互作用によるユビキチン化という修飾で厳密にコントロールされている。NF-kappaBの活性調節ではこのユビキチンという分子が大活躍することがわかっており、私たちは現在ユビキチン分子を蛋白質分子からはがしたり付けたりすることができる修飾酵素A20の機能に注目している。NIKの過剰発現が問題となっているがん細胞ではこのほか、遺伝子(DNA)の数や構造、メッセンジャーRNAの発現メカニズムの調節機構などについても異常がないかどうか、分子生物学的手法で調べている。

NF-kappaBはこれまでの研究で、免疫や炎症にかかわる重要な役割を果たしていることが知られている。私たちはマクロファージという免疫、炎症の第一線で活躍する細胞が分化する際にNF-kappaB活性化が必要とされることに着目して、そのしくみを探ろうとしている。実際にはすでに確立されているマクロファージへの分化モデル細胞を使って、細胞内で関連分子がどのように相互作用して持続的なNF-kappaB活性を維持することができるのかを調べている。この方法の利点のひとつは、細胞ごとに出自も特徴も異なるがん細胞と違って、実験の間中同じ細胞を扱って変化を追跡できるという点である。

 

この研究から期待されること

NF-kappaBが活性化するとがん細胞の増殖が促進されたり、抗がん剤が効かなくなったり、浸潤や転移といった生命を脅かす現象が起こりやすくなると言われている。がん細胞やまわりの組織での異常なNF-kappaB活性をもとにもどすためにカギとなり、がんにユニークな治療標的となる分子がはっきりすれば、より副作用の少ない治療薬の開発への道が開けると期待される。また、炎症のコントロールの比較的初期に働くとされているマクロファージの分化や機能発現のしくみの一端がわかれば、治療のむずかしい多くの慢性炎症性疾患の治療法開発に貢献できると期待される。

このような考え方、手法に関心ある多くの熱意ある大学院生の参加を期待します。

教授・山岡昇司

 

病気の原因を細胞レベルで考えると、遺伝子と蛋白質の問題にたどり着く。それは、正常な細胞の活動を支えているのが蛋白質同士のネットワークだからであり、そこでは情報のやり取りはもちろん、相互作用によって物が作られたり運ばれたりあるいは分解されたりする。ある病気での蛋白質の異常は、発現量や構造上の異常かもしれないし、蛋白質分子上に加えられる目印(修飾)の違いが原因であるかもしれない。癌を例にとると、細胞膜から細胞核さらには遺伝子へと情報を伝えるシグナル伝達経路上の蛋白質が遺伝子配列の変異の結果発癌性を持つようになったり、ふだん細胞の増殖を抑えている蛋白質が変異の結果その機能を失ったり蛋白質の発現が失われたりすることがある。炎症という現象はけがをした際や病原体に感染したときに起こるからだの反応で、発熱や痛みを伴う。慢性炎症性疾患は、このような外的な原因がなくなっても炎症が治まらないような病気で、炎症をコントロールする遺伝子の発現や蛋白質に問題が生じていると考えられている。自己免疫疾患(膠原病)やアレルギー、最近ではがん、肥満や動脈硬化症も慢性炎症と関連があると報告されている。