教育
医学部2年次の講義「感染・基礎」および基礎医学実習を担当し、ウイルス学・細菌学・免疫学をふまえた病原微生物学の教育を行っています。微生物の構造、増殖、機能、遺伝に関する原理および微生物と人体との相互作用によって生ずる諸現象の理解と考え方の修得が目標です。また、大学院生の教育も担当し、最先端の感染症学研究を指導しています。文献抄読会、教科書の輪読、データ検討会を定期的に行い、生命現象や感染症の分子的基盤の理解につとめています。
研究
なぜウイルスはそれぞれに異なる病原性を持ち、多種多様な感染症を引き起こすのでしょうか?また、ウイルスの集団構造は病原性の発揮にどのような影響を与えているのでしょうか?私たちは学際的なアプローチを用いてこれらの難問に取り組み、ウイルスの進化と病原性を支配する分子メカニズムの解明を進めています。
【研究テーマ1】エンベロープウイルスによる膜融合制御メカニズムの研究
私たちはこれまでの研究(後述、研究テーマ2・3)を通して、エンベロープウイルスの増殖に必須の膜融合を制御する宿主側、ウイルス側の因子が、病原性発揮メカニズムと密接に結びついていることを明らかにしてきました。エンベロープウイルスにはヒト病原性を持つものが多く含まれますが、その膜融合制御メカニズムの全容解明にはほど遠い状況です。私たちは現在、創意工夫を凝らしながら、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ヘンドラウイルス、ニパウイルスなどヒトに重大な被害をもたらすウイルスの融合制御に関する研究に取り組んでいます。
【研究テーマ2】麻疹ウイルスによる致死性脳炎発症メカニズムの研究
麻疹(はしか)は、高熱と発疹を伴うウイルス感染症で、今もなお発展途上国を中心に猛威を振るっています。病原体である麻疹ウイルス(MeV)は回復後もまれに脳に潜伏感染し、感染後数年を経て致死的な脳炎(亜急性硬化性全脳炎、SSPE)を引き起こします。その時限爆弾のような発症様式は元来神経親和性を持たないMeVが患者脳内で進化することによりもたらされます。私たちはこのようなMeVの体内進化によるSSPE発症メカニズムの解明に取り組んでいます。最新の研究では麻疹ウイルスが神経細胞で増えるメカニズム「シス膜融合誘導(シス受容体模倣因子)」を発見し、それを可能にするウイルス側と宿主側の要因をそれぞれ明らかにしました。
Shirogane et al., 2020, Journal of Virology
Shirogane et al., 2021, Journal of Virology
Takemoto et al., 2022, Journal of Virology
Takemoto et al., 2023, Journal of Virology
私たちはいつの日かSSPEで苦しむ若い命がこの世界からいなくなることを目指し、研究に邁進しています。
【研究テーマ3】ウイルス集団のコミュニティ形成に関する研究
私たちはウイルス間の相互作用の研究にも取り組んでいます。私たちは欠陥ウイルスが集団に有利に働く「協調」や不利に働く「欠陥干渉(DI)」という現象のメカニズムを報告しました。さらに麻疹ウイルスによる致死性脳炎の発症に、異なるウイルスゲノム間の相互作用が重要であることを示しました。これはSociovirology(日本語で社会ウイルス学)という新しい研究分野です。
Shirogane et al., 2012, Nature Communications
Shirogane et al., 2021, PLoS Pathogens
Xiao Y, Lidsky PV, Shirogane Y, et al., 2021, Cell
Shirogane et al., 2023, Science Advances